後継者

親子経営にありがちな任せたという親と任された意識のない子の譲り合い

たまたま、ある会社に訪問させていただいたときこんなことが起こりました。
社長は「すべて専務(息子)に任せているから」という。
専務(息子)は、「いやいや、そんなことを言われても」という妙な譲り合い。

ボールはお互いの間を行き来し、2人の間でバウンドする。
親子経営に関わらずよく見かける光景です。

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責任関係のはっきりしない会社

誰がリーダーなのか?

冒頭のお話のように、お互いがリーダーを譲り合うケース、けっこうあります。
社長(親)は、息子に任せたというけど、
息子はそうは取っていない。

たぶん、どんなことでも息子は親に相談するのでしょう。
そして親は聞かれれば「こうすればいい」と答える。
息子にしてみれば、それは自分ではなく「親である社長」が決めた決定。
だから従うんだ、と自分を納得させる。

親である社長は社長で、いろんなことを自分が決めている事実にはあまり目を向けず、とにもかくにも息子に任したの一点張り。
じゃあ、この会社を責任持って運営しているのはだれでしょう?
社長を問い詰めても「息子に任せてる」
息子ににじり寄っても「社長の意見を」
このような堂々巡りはけっこうあるものです。

従業員は何を見ている?

外部の人間である私がわずかな時間でその関係を目にするという現実があるわけです。
とすると、四六時中行動をする従業員はより色濃くそのことを感じているでしょう。
船頭がいない会社を彼らは果たしてどう考えるでしょうか?

親子で会社のリーダーというボールを投げあってる姿を見て、決して良い印象は受けないでしょう。
あるいは船頭のいない船から降りることも考え始めるかもしれません。

悪いのはだれなのか?

こういった状況を、意外なことに当事者は気づいていないことが多い。
ただぼんやりと、社長は後継者のことをどこか物足りなく感じている程度かもしれません。
きっと、「積極性が足りない」と評することが多いと思います。

後継者にしてみれば、割とそれが居心地がいいはずです。
重要な決定は、親である社長に任せ、自分はその手足として動けばいい。
つまり、責任は自分でなくて、社長がもつものだということで重い責任をかぶらないようにしているわけです。

私の責任逃れ

「親が決定したことだから」

白状すると、私にもそんな時期がありました。
重要な決断において、親がそれをするよう仕向ける。
すると、まあたいてい親は決めるわけです。
「ほっときゃいい」とか、「こっちがいいやろ」とかいう決断します。

自分の中では、「いやいや、それは長期的に見てまずいんじゃないか?」とか、「いずれ問題が表面化するぞ」とか思うわけです。
だけど、上司である親が決めたことだからと、自分を説得するわけです。
自分には異論がある。
一応はそのことを口にはするけど、最後は親が決めた。
つまり、なにかあったら、親のせいだ、と言えるわけです。

非常に楽な立場にいる(ような気がする)わけです。
だから、あえて自分の意見を押し通すことなく、「わかりました」と従順に従う。

結果の責任をとるハメに?

そして予想通り、何年か後に親の判断が正しくはなかったことが明確になるような事件が起きます。
その時私はちょっと離れたところから、「ほら、やっぱりこうなった」というわけです。
親の判断が誤りだった、と主張するのです。
「あの時こうしておけ、と言ったのに・・・」
なんていう、自分は何でも知っている風な口をききます。

なんともずるい奴ですね。
けど、当たり前のように、そういうことをしてきたことは認めざるを得ません。
しかし、わかってはいるのですが、たいてい、そのしりぬぐいをするのは私になる事が多かったわけです。
前面に立って対処することばかりではないですが、問題解決の糸口を私も考えざるを得なくなります。
だったら初めから、自分の主張する「正しいであろう」意見を強く主張すればいいのに、しなかった。
理由は簡単です。
強い主張をして問題が起こったら自分のせいになります。
けど、親の主張を取り入れて失敗したのだから、親が悪い、と親のせいにすることができるわけです。
なんともずるい話ですね・・・汗

じつは双方正しいことをしていなかった

振り返ってみれば、その場しのぎの対処を優先させようとした親も親です。
一方で、それが誤りだと感じながら、自分の意見をその場で伝えない私はもっと罪深いかもしれません。
今あらためて感じることは、当時「自分は会社全体のためを思っている」と思い込んでいました。
しかし、結局自分が楽になる場所を確保することだけを考えていたんだな、と自己嫌悪に陥ってしまいそうです。

人は楽な場所を求める

私は特別ずる賢かったのか?

先ほどの話は、あくまで私の個人的な体験ですので、すべての人には当てはまらないかもしれません。
冒頭の「責任のキャッチボール」をしていた二人を見ていて、そんな過去の自分と重ねてみてしまったのです。
今経営の矢面に立つ社長にとっては、「今、シンプルに楽になる」判断をする傾向が強い。
そして、そのすぐ下に控える後継者は、長期的視野を見ることはできるけど、あえてそれを口にしないこともある。

そうやって、最後の責任を負わない安全地帯を確保しようとしていることはないでしょうか?

もしそうだとすれば、第三者からすると、会社にマネジメントが不在である、という印象をつけていることを自覚する必要があります。

ボールを受け取るのはだれか?

後継者の方は、「今の間は・・・」と責任のボールをできるだけ取らずにやり過ごそうというタイプの方がいらっしゃいます。
そして、それは今だけはそれでやり過ごすことができるかもしれませんが、最後の最後に責任を摂らざるを得ないのはだれか?と真摯に向き合う必要があるのではないでしょうか。
事業承継の中で、好むと好まずとにかかわらず、会社を継ぐという状況にある中では、最後に責任をとるのは後継者です。
言うまでもなく、親は先に会社を引退するからです。
そのタイミングが早かろうが、遅かろうが、順番としてはそういう流れになります。
その時に今までは、親がいたから「親が決めたこと」といって責任のボールを投げ返せましたが、そうなると投げる先はなくなります。
けっきょく、そのボールは自分の手元に帰ってくるわけです。

つまり最後の最後は、自分がボールを持つことを改めて認識することで、譲り合いをする気にはなれなくなると思います。
すべてのボールを受け取るぞ、という思いを持った時が後継者の覚悟を決めるときだと思います。

まあ、はじめのうちはちょっとびくびくするかもしれませんし、嫌なんですが、逃げようが向かおうが、会社を辞めない限りはそのボールは最後には自分の手元に戻ってきます。
そういう前提で、一つ一つの判断を考えていくことは、大事なのではないでしょうか。

譲り合いが美徳なのは、電車のシート。
経営においては、譲らない姿勢も大事なのではないでしょうか。

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