創業者

先代が後継者を押しのけて「返り咲き」を決断する前に考えて頂きたいたった一つのこと

時折耳にするケースで、一旦、社長がその立場を退いたのち、また、返り咲くという事があります。
理由は様々でしょうが、私の知る範囲では、業績の悪化に伴いその対策のためというケースが多いようです。

私の意見としては、これはあまり良い選択とは思えません。
なぜなら、後継者を全否定するものだからです。

「返り咲き」を決断する前に、考えて頂きたいたった一つの事があります。


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ある企業の事例


年間売上高6億円の、ある企業。
仮に、T社とします。

T社は、現在70歳になる社長が創業し、インテリアの卸から、インターネットによる小売にも進出し、非常に安定した経営をされている企業です。

インテリアという、センスが求められる商材ですから、仕入れが非常に重要なビジネスでもあります。
今から、5年ほど前、社長は引退を決意し、当時仕入れを一手に引き受けていた幹部社員を後継者として社長に就任させました。
実は、その経緯を伺った際に、私は少し違和感を感じました。
引退を決意したはずの社長から、その決意が今一つ感じられないのです。

こういった創業者には、ある特徴があります。
それは、自分が引退することを、とても自慢しているような話しぶりをされるのです。
確かに、後継者を選定し、会社を次のステップに進めた自負があるのかもしれません。
しかし、そういった場合は、むしろ自分が後退することへの寂しさが表情に現れることが多いのです。

ところがこの社長は違いました。
堂々と胸を張って、代替わりについてを熱く語っていたのを今でも記憶しています。

 

ファッションとなった事業承継


その方とのお話の中で、私が持った印象は、「事業承継をファッションととらえているのではないか?」というものです。
どういう事かといいますと、世の中事業承継はどこもうまくいっていない話が多い。
しかし、自分のところはそんなことはないよ、自分は進んだ経営をやっているよ、という自己主張のための事業承継ではなかったか?と感じていました。

T社では、ご子息が会社に入られていたものの、まだ若かった。
という事で、番頭さんが中継ぎ的に社長となったのです。
そして、その後、T社の創業者とお目にかかった際に出てくるのは、案の定、番頭さんから抜擢した新社長の愚痴ばかりでした。

私は、会長(創業者)が、退いてなお経営にかかわりすぎていることを指摘させていただきましたが、「この業績ではとてもではないが、任せておけない」という会長(創業者)の愚痴は「一旦俺が、会社を立て直す」という主張に変わっていきました。

 

事業承継の目的は?


そこで、私は改めて会長(創業者)に問いました。

「この事業承継の目的は、何なんですか?」

と。

 

もし、その事業承継の目的が、
「企業を存続させること」
にあるとすれば、創業者の返り咲きなど、よほどのことがなければあってはならない事です。

 

なぜなら、それは後継者に対するダメ出しです。
言ってみれば、一旦渡したリレーのバトンを、次の走者から奪い取ってもう一度走るようなものです。
さらに考えて頂きたいのは、創業者は、この先30年、40年、会社にかかわることができる年齢ではない事が普通です。
創業者の力量に、会社が頼り切っていれば、会社の永続性などあり得ないのです。

返り咲いたことで、体制整備をしたうえで仕切りなおすなら、わからない話ではありませんが、T社においては創業者が返り咲いた後、企業は番頭社長が擁立される前の状態に戻っただけでした。
事業承継の目的が、事業の存続という事であれば、最優先されるべきは、後継者が経営の経験値を積むことです。
一時的な業績の悪化で、簡単に返り咲いてはいけない、と私は考えています。
さらに言うなら、「誰かが何とかしてくれる」という後継者の甘えを断ち切る必要もあります。
すぐに返り咲ける位置に創業者がいるとすれば、後継者は本気を見せられない事もあるでしょう。

そう考えると、創業者がスムーズな事業承継を考えるとき、後継者に意見をしてはいけないのです。
自分で何かを決断してもいけないのです。
必要な時に、後継者に決断をさせることが必要なのです。

まとめ


事業承継には、覚悟が必要です。
それは、後継者だけではなく、引き渡す立場である創業者も同様です。
その時に、常に問うて頂きたい唯一の質問は、
「何の目的を持って事業承継をするのか?」
という事。

以前も書いたことがありますが、事業承継が上手くいかないケースでは、ここが明確ではないことが非常に多いのです。
また、この質問への答えを見ようとしていない人も非常に多いのです。
頭で考えればわかる事も、体がそれを受け入れない事もあるでしょう。
自分の起こした会社への未練も少なからずある事でしょう。

しかし、その会社への愛があるからこそ、ぐっとこらえなければならないことがあるのではないかと思います。
一方、会社を自己実現の道具としてとらえている自分を発見したとしたら、事業承継への姿勢を少し考え直したほうが良いかもしれません。

その場合、可能な限り現役を続け、どこかのタイミングですっぱり分離できるようM&Aを検討することも一考かもしれません。

いずれにせよ、目的の不一致があるままでは正常な事業承継は困難です。
つねに、「この事業承継の目的」を自問自答し続けることで、何をどうやっていくかの判断基準を明確にしていただければと思います。

 

 


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