強くもなく、速くもなく、大きくもない人類が、なぜ今も生物界の頂点に立っているのか。
どうやらそれは、いち早く危険を察知し、それを遠ざけるようプログラムされた脳に理由がありそうです。
人は、無意識にリスクを排除するよう行動するプログラムを持っています。
事業承継で親子の確執がおこるのは、そのプログラムが原因になっていると私は考えています。
つまり、人間の深い部分での反応が、親子を仲たがいさせているのです。
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パレイドリアフェイス、という言葉があります。
たとえば、この記号を見てください。
∵
ただの点の集まりなのに、顔に見えてきたりすることがあると思います。
人は、自分の周囲に顔を持つ生き物を見つけると即座に注目し、危険度を測ります。
自分はそんなつもりがないのですが、無意識にそういう判断を一瞬でします。
これほどまでに危険にたいして敏感に作られている私たち。
だからこそ、ここまで人間が生き抜いてきたのでしょう。
さて、親子の事業承継においても、このプログラムは発動します。
こういうと驚かれるかもしれませんが、順を追って説明しましょう。
まず親は、子どもに自分の会社を継がせたがります。
その理由は、本人も気づいていないことが多いのですが、親自身が「自分がやってきたことが認められた証」だからです。
一般的な解釈では、会社中心で考えて、会社を残すために誰かが継ぐ必要があって、そこに最も近いのが子どもである、と言われがちです。
しかし、実際はそうでないことが多いと思います。
かりに、自営していないサラリーマンでも、子どもから自分と同じ道を歩むよ、なんていわれたらうれしいものではありませんか?
それと同じです。
先代社長は、自分がやってきたことを、認められたくて子供に継がせたい、と考えるのです。
一方、子どもは、なぜ親の会社を継ごうとするのでしょう。
これもまた、親に喜んでほしいからです。
こういうと怒り出す人もいるかもしれませんが、表向きは「会社存続のため」行われる事業承継ですが、
心の奥底では、それぞれが自己肯定感を満たすためにそれは始まります。
このことは、はじめのうちはある程度バランスが取れていたりします。
しかし、あるタイミングで、人が自分を守るためのプログラムが起動します。
それは後継者が自分の意志を社内で主張し始めた時です。
後継者としては、いつまでも親の言いなりでは自分の将来が不安だ。
そんな思いもあって、自分の独自路線を打ち出そうとします。
まずここで、将来のリスクが後継者を突き動かします。
先代社長がこのことを受けてどうふるまうかと言えば、マウンティングが始まるのです。
後継者が多少なりともしっかりしてきたと感じると、自分の地位が危うくなるからです。
もちろん、意識上はそんなことまったく考えていません。
後継者の成長を喜んでいる一面さえあるかもしれません。
しかし、心の奥底の無意識のプログラムは、自分の存在を脅かす後継者をリスクと感じます。
経営の近代化に反対する先代社長が多いのもそういった理由からです。
よくわからないITツールなどを入れられれば、自分の威厳どころか、居場所さえなくなるかもしれない。
そんなリスクに即座に反応して、激しい言葉で後継者に異を唱えます。
後継者の立場に立ち返ると、親に見放されたかのような気分になるでしょう。
親が求めてると思うから、会社を良くし、将来のビジョンを作ろうとしているのにことごとく反対される。
ここに、「自分がないがしろにされている」、つまり自分が必要とされていないことに強いリスクを感じます。
その結果、後継者はさらに、社内での自己主張を強める場合が多いと思われます。
この負のスパイラルは延々と続きます。
どちらかが、この仕組みに気付き、止めようとしない限りは。
だから私は、本を書き、ブログを書き、たくさんの人に伝えたいと思っています。
双方決して悪い人間ではないのに、会社に来るといがみ合う。
あまりにも不毛ではありませんか?
この関係を断ち切るのは、自分の無意識にこういったプログラムが動いているのをまずは知ること。
そして、そのプログラムが発動した時、「あ、リスク回避モードに入ってるな」と自分で気づくこと。
さらに、そのモードに入っている自分を客観視し、改めて自分の取るべき行動をしっかり考えること。
これを繰り返すだけです。
そうすると、今までの負のループを一段上から見下ろすことができるようになります。
今まで、歯ぎしりするようなツラい環境が、どこかバカバカしくさえ見えることもあるでしょう。
「いやいや、そんなの親がそう考えを改めるべきなんだ」と考える後継者はいるかもしれません。
しかし、問題は、そのことを問題と考えている人自身が対処しなければ、解決しません。
ぜひ、自動プログラムの呪縛から抜け出してください。
きっと新しい世界が見えるはずです。
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