後継者

分業化は効率を上げるのか?

コンサルタント的な人が好んで使うのが「分業化」というやつ。
専門性が高まるし、効率もよくなる。
ああ、なんてバラ色のようなシステムなんでしょう!
なんて夢を見ていると、ふたを開ければやたらと忙しいセクションと、暇を持て余すセクションが出来たり、
分業セクションごとの対立が起きたり。

大企業のマネをさせたがる人は多いのですが、ここは自分で考える、ということをやってほしい。
考えることは、後継者の大事な仕事です。

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「分業化」を果たせば本当に効率は良くなるのか?

教科書通りの指導

「分業化をすれば、効率は上がる」
どこから引っ張ってきたのか、コンサルタント的な人はこういう指導が大好きです。
私たちは保険代理店をやっていますが、メーカーである保険会社はたいてい二言目にはこういいます。
「分業化をして、効率と専門選を高めましょう」と。

たぶん、多くの同業他社はそれをマジメにやろうとします。
けど私はいつもその意見に反発します。
そういうトライアルは過去やってきて、その問題点もよくわかっているからです。

しかし、指導する側は、たぶん、実体験の経験がありません。
というか、「教科書は正しい」と信じ切っているちょっと自分の頭で考えるのが苦手な人であることが私の経験上多い。
素人が教科書を鵜呑みにして言ってるだけの場合がほとんどです。

分業化の問題点

かつて、当社で比較的分業化を徹底したことがありました。
そのとき何が起こったかというと、セクショナリズムの壁ができました。
わかりやすく言うと、専門分野のチームごとのおしくらまんじゅうが起こったということです。
そして会社の仕事がとんでもないくらい非効率になりました。
暇な部署と、大わらわの部署が当時に存在し、効率化とは程遠い状態が散見されました。
たった10名にも満たない組織の中で、です。

考えてみれば当たり前の話です。
飲食店で例えるとわかりやすいと思います。
飲食店では、表で見える人員としては大まかに分けて次の三つの役割に分けられます。
①レジ周り、顧客の案内に特化した人
②オーダーを採り料理を運ぶことに特化した人
③料理を作る人

お店が満席になるまでは、①、②が大混乱です。
そしてオーダーが入り始めると、③は大忙し。
一旦、お店が満席になると①、②は暇になります。
③は相変わらず殺気だった状況ですが。

例えばこの時に、①、②が、キッチンを手伝えると効率は良くなるはずです。
それを実現しているのが、餃子の王将です。
だから、早くて、安くて、うまい、が提供できます。

PexelsによるPixabayからの画像

大衆店と高級店

高級店の専門性

分業制は「専門性」を担保する方法の一つとして、検討されるものでもあります。
先の飲食店の話だと、たとえば、一定以上の高級店の給仕は特別な専門性を必要とします。
高級店であれば、ソムリエがいたり、エレガントに料理を取り分けてくれたり、ハイソサエティなコミュニケーションや気遣いが必要かもしれません。
料理だって、アルバイターがちょっと練習したところではできないようなものを提供してくれるのでしょう。
こういったお店は、専門分化が不可欠です。

しかし、こういうお店は料金が高い。
なぜ高いかというと、食材も高いし、場所もいいところにあります。
さらにいうと、「専門スタッフを育成する料金」がそこには含まれていると考えるのが普通でしょう。

専門的サービスは、専門サービスを提供するためのゆとりが社内に必要です。
そういった高級サービスを提供するつもりなら、分業化は絶対に避けて通ることができません。

Javier López LorenzoによるPixabayからの画像

分業化は「効率」よりも「専門性」?

では、分業化というのは専門性には効くけど、効率化には効かないのか?といえばそんなことはありません。
単純作業をするときや、仕事の範囲が限定されているとき、その仕事をたくさんこなすことで人は「慣れ」ます。
工場でバイトをしたことがありますが、まさに二つか三つくらいの部品を組み付け、次に流すという流れ作業。
かなり効率的でした。
もう無意識に、身体のクセだけで作業が完了していました。

つまり、分業化は作業を分解して、延々と同じことをやる分には効率は良くなります。
また、仕事の範囲をある程度限定することで、その仕事に慣れるとか、その仕事における様々な突発事案の経験を蓄積するとかで、確かに効率的に作業できるようになります。

だから、分業化は確かに効率にも効くのです。
しかし、ここが問題なのですが、個人レベルの効率はアップするけど、組織全体の効率はアップするとは限らない、という要素があります。
工場のような単純作業でさえ、仕事の効率は人によって差が出ます。
Aさんが非常に作業が早くて、自分の作業をあっという間に終わらせ、製品を次の担当者に流します。
次の担当者Bさんが、作業効率が悪く、そこに製品をため込んでしまったとしたら、その製造ライン全体の効率はがた落ちです。
そして、作業がべらぼうに早いAさんは、その間、ぼーーっと待つしかありません。

よほど考えないと、個人レベルでは効率化が進んでも、組織レベルでは効率化の恩恵を受けられていないということはありそうです。

 

専門性を担保するために会社のビジネスを狭める

Aさんは忙しいがBさんは暇事件

ずいぶん昔になりますが、私の会社でいろんな分業を試してみました。
たとえば、保険屋さんなので
・販売
・事務
・事故の受付
という業務に昔は分割していました。

で、何が起こったかというと、まず「事故」は起こるときもあれば怒らない時もある。
担当者は、暇なときと、そうでない時が非常にばらつきがあります。
忙しい時は一人テンパって、暇なときは新聞を読んでいます。
さすがに新聞ばかり読んでいるわけにもいかないので「余計な仕事」を作り始めます。

要もなくお客さんを訪問したり、電話をしたり、ということです。

 

事務もまた、販売部門の仕事机に仕事が溜まっているのを見て、サポートしたいと思ったようです。
しかし、どこまで触っていいかもわからない。
そもそもお客様からの問い合わせに、自分たちが答えていいのかもわからず右往左往していたようでした。

この時思ったんです。
こういう小さな組織は、分業よりもゼネラリストを育てるほうが効率が良い、と。
仕事の内容に壁を作らないほうがいいな、と感じました。
そして専門性は、そもそも当社としての取扱いラインナップを狭めることで実現すべき、と考えた時期がありました。
(これに対してメーカーは相当反発しますが)

結論としては「十把一絡げ」にはできない

とまあ、話があっちに行ったりこっちに行ったりで、何が言いたいのか?と言われそうですね。
言いたいのは、「十把ひとからげ」にはできない、ということです。
会社には会社ごとのステージや、仕事の進め方、そして考え方があります。
コンサルタントの教科書に記されている事例のようなパターン化はできない、ということです。

ノウハウ書というのは、それを売るのが商売です。
だから簡潔に、パターン化して案内されます。
しかし、それを真に受けてはいけません。
これらはキッカケとしての知識としては十分役に立つものですが、常にそれが使える物とは限らないのです。

大事なことは、それらを盲信するのではなく、自分の会社にとって参考になるものか、そうでないかという選球眼をつけること。
自分で考える想像力を持つことではないかと思っています。

Arek SochaによるPixabayからの画像

 

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