私の会社は、全社員が同じフロアにいます。
つまり、会社に入る電話の状態がわかります。
私はそのすべての電話が、誰からの電話で、どんな内容かをある程度把握しています。
もちろん、詳細までは聞き耳を立てているわけではありません。
しかしそれが、簡単な問い合わせなのか、クレームなのか。
どのお客さんからの電話が多いのかは、片耳から入る情報で十分把握できます。
日頃は聞いていないふりをしていますが・・・
私の著書です。
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Contents
何に関心を持っているか?
社内の電話や社員の会話を知っている
いつごろからかは記憶にありませんが、あるタイミングから、私は社内の電話や会話を常に片耳から聞いています。
会社にかかってくる電話がどんな性質のものか、
社員が何で困っているのか、
お客さんはどんな用事で電話をしてくるのか。
その大雑把な流れは、常に把握しています。
ある程度社員数が多くなったり、電話を受ける場所が複数に点在していたり、物理的にそれが難しい状況もあるかと思います。
しかし、当社においては、ワンフロアの場所に電話がかかってくるので、私がそこにいれば大抵は動きがわかります。
かといって、電話が入るたび手を止めて聞き耳を立てているわけではありません。
集中して仕事をしていますが、片耳から入ってくる感じです。
おそらく、小さな組織の社長であれば、現場で何が起こっているかの情報収集には気を使われていると思います。
私の場合は、それを耳から行っています。
関心ごとが会社になくなりはじめた先代
実は、この習慣は、先代が言外に求めたことだったと思っています。
先代は、唐突に言うわけです。
「おい、さっき事務の子がとった電話、お前が出たほうがよかったんじゃないのか。」
当時は、人がとった電話の事なんて意識もしてなかったので、何言ってるの?という感じでした。
そこに対応できないのが腹立たしくて、いつしか、すべての電話を意識する習慣が身に着いたのです。
さて、その先代も、代を私に譲って10年以上になるわけです。
その癖は当面は抜けませんでしたが、今となってはすっかり抜けてしまったようです。
高齢になって、耳が遠くなったという事もあるのかもしれませんが、社内で何が起こっているかを察知する能力は低下しています。
当社の先代に限らず、年齢とともに身体機能の衰えのみならず、心理的にも自分のこと以外を認識する事が難しくなる傾向があるようです。
この状態で経営を続けていく、というのは少し危険な気もします。
ところで、会社全体を見る人が私一人になりました。
全体の最適化を考える後継者と、全体を見ることができなくなってなお力を維持する先代。
そしてそこに、別の勢力が存在することがあります。
兄弟経営の問題
弟は職人
当社の状況を包み隠さずお話ししましょう。
私の下に、専務として弟が勤めています。
彼は、会社のすべてを把握する意識を持っているでしょうか。
私が見る限り、そのような能力(というより関心)は持ち合わせていないように見えます。
社内で何が起こっているかを感知する能力は低い、というのが私の評価です。
彼は、すでに私が代を継いだ年齢を越えていますが、基本的に職人です。
私は彼に対して、自分の目の前の作業に忠実な人間という評価をしています。
全体を見る事よりも、自分の技術を磨くことが関心ごとのようです。
つまり、経営者としての自分というイメージを持っていません。
ここが難しいところで、変に経営者面をされると兄にとっては不愉快極まりない。
一方で、いつまでも一社員の自覚しかないのはこれまた不愉快なのです。
私がこのような状態であれば、弟としても動きが取れませんね(^^;
その苦労を強いているのは、頭では理解しています。
兄は責任を、弟は従順を求められる
以前にもこの事は書いたことがありますが、再度確認します。
一般論として、長男が早くに父親の会社に入社したとします。
長男に求められるのは、早く大人になる事です。
いいかえれば、責任ある行動を求められます。
一方、弟に求められるのは、先代に対して従順であることです。
本来は、長男にも従順さを求めたいのですが、親離れしようともがいている長男はお世辞にも従順とは言えない。
だから、まだウブな弟を従順な支配下に置くのが一般的なパターンです。
弟は、兄と父との板挟み。
どちらにも動けず、悶々とします。
おそらく、父の言いつけに従う傾向が強いとは思いますが。
その結果、兄と弟は仲たがいを始めます。
よくあるお家騒動では、父側には大抵第二子以降の子供と先代の妻がついているものです。
そこへの抵抗勢力として対抗するのは、多くの場合第一子ではないでしょうか。
そういった血みどろの構図を作りだすリスクが大きいのです。
兄弟経営の典型的パターンは次の四つです。
①お互いが依存しあう関係(傷のなめあい)
②お互いが反目しあう関係
③弟が兄に従う関係(弟は常にフラストレーションを持っている)
④弟が兄にたてつく関係(兄は常にフラストレーションを持っている)
①は一見上手くいっているように見えますが、会社全体を見ると元気のない印象を受けます。
②のなれの果てが、兄弟での分社。
③は場合によっては、弟が会社を飛び出すケースや兄に対してクーデターを仕掛けるケースがあります。
④は兄が弟を飼い殺しにするか、会社から放出します。
ハッピーエンドはないのか?って感じですね。
私の知る限り、非常にまれと言わざるを得ません。
基本は、親ときょうだいを交えた血みどろのバトルがどこかで勃発する覚悟は必要になります。
兄弟の関係から妬みを払拭することは難しい
先代世代の人たちが信じている迷信があります。
”親族で固めれば安心”という妄想です。
兄弟というものは、小さいころから親の愛の争奪戦をくりひろげてきたライバルです。
先代が平等に扱おうとすればするほど、彼らの主観では差別されてると感じます。
そうとう注意深く扱わなければならないのが、兄弟と親の関係です。
しかしそのことを意識している親はほとんどいないでしょう。
それを安易に、血のつながりで解決できると考えているとしたら、とんでもない誤解です。
血が繋がっているからこそ難しいのです。
解決の糸口はあるのか?
「三本の矢」が成立する要件
故事にある「三本の矢」の話をきいたことのある人は多いと思います。
毛利元就が、病床にあるとき3人の息子を呼び、こういったと言われます。
「一本の矢はすぐに折れるが、三本束ねればすぐにはおれない。
一人ひとりでは弱くとも、お前たちも協力する事で強くなれる。」
有名な話なので、知ってる方も多いでしょう。
しかし、これは史実ではなく、その後の創作であるという見解が強いようです。
戦前の小学校の教科書に掲載された物語だという事です。
その当時は、家督相続といわれる「長男ひとりが相続する」制度があった時代です。
つまり、誰がリーダーとなるかがあらかじめ決まっており、
ほかの二人はそれをサポートするという役割が明確だったからこそ成り立つ話だったのではないでしょうか。
今の時代は、耳障りの言い”平等”という言葉に惑わされ、先代がリーダーを決めることなく兄弟を協力させようとします。
だから難しいのです。
せめて先代は、早い時期に後継者を一人決めておくべきなのです。
だから今からでもはっきりさせる必要があります。
誰を後継者とするのか。
誰をそのサポートとするのか。
仮に長男を後継者とするなら、長男をリーダーとして扱い、弟には兄を尊敬する態度をとることをしっかり言い含める必要があります。
お前は、兄のサポートのためにいるのだ、と。
その上で、サポート役の兄弟は、自分の身の振り方を決めるべきだと私は思っています。
兄弟のいずれかを後継者とするつもりであれば、
先代は今すぐ、後継者を指名すべきなのです。
そしてその後継者に完全に従う事を、もう一人の兄弟に誓わせるべきなのです。
同族会社において、先代が兄弟を平等に扱うのは最も危険なマネジメントです。
これを避けようとする先代は非常に多い。
もう一つよくあるミスは、「実力を評価して後継者を決める」という愚行です。
競わせて成長させたい気持ちはわかります。
しかし、それが兄弟の仲を悪くし、どちらかが覇権を握ったとき、もう一人の兄弟は島流しに合うのは目に見えています。
あえて、兄弟を敵対させるバカげた行為なのです。
先代が「決断」出来ない事を棚に上げて、子供同士を争いに駆り立てているのです。
兄弟間でできる事
先代が決めきれないケースはよくあるパターンです。
だれしも嫌な決断はしたくないわけですから。
そんなときでは、兄弟間で何とかしなくてはなりません。
しかし、私のボキャブラリーの中でできる事はあまり多くはありません。
一つは、まったく仕事の性質の違うジャンルでお互いがかかわることなく仕事をできる状態を作る事。
ある企業では、兄が本社(関西)、弟が東京支店を担当していました。
またあるケースでは、兄が製造部門、弟が営業部門を担当していました。
ほかには、兄が新規事業を立ち上げ、弟が既存部門を担当する(逆もあり)ケースもあります。
組織が大きければ、そういった選択肢がないわけでもありませんが、小さい会社は逃げ道がないのがつらいところです。
いずれにしても、相続などが発生したときのトラブルは必至なので、早い段階での遺言の準備などを先代は準備すべきでしょう。
こういった問題は、口にしないまでも潜在化していることもけっこうあります。
親が健在な間は問題にならないことも、親が体調を崩したりしたときには表面化することもあります。
注意しておくに越したことはないでしょう。
もちろん、わずかではありますが、兄弟で見事な連係プレイで会社を盛り立ててるケースもないわけではありません。
しかし、そのわずかな可能性にかけるのは、かなりリスクが高いと言わざるを得ません。
今の私の結論としては、その状態になるまえに、兄弟が入社するのを阻止するのが最も現実的な対策。
もうすこし根本的な結論を考えるとすれば、自分自身の人としての在り方が重要になります。
幼少のころから持っている兄弟や親への嫉妬や執着を、常にリアルタイムで強化しているのが親子・兄弟が同じ会社に存在している状態です。
身近に身を置くことで、どんどん悪感情を上塗りしている状態と言えます。
だから年とともにその溝は深まるのです。
そこで何ができるかといえば、親が兄弟と自分をどう扱おうと気にならない状態になる必要があるわけです。
自分以外の兄弟を優遇しようが、冷遇しようが、自分は自分、という意識を持つことが大事になるでしょう。
それは本当の意味の自立ではあるのですが、この世でそこに至る人はほんの一握りでしょう。
そうでなければ、”争続”がこれほど起こるわけもなければ、親子の不和もありません。
そんな本質的な成長を非常に濃い形で求められるのが兄弟経営といえるのではないかと思います。
残念ながら私はまだその境地には至っていませんが、そこへ向けての努力はしているつもりです。
私の著書です。
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