前回、
【長文なので閲覧注意】同族会社の二代目社長が会社の新たな戦略作り上げるための教科書~会社の在り方編
というタイトルで、会社の進むべき目的について詳しく書きました。
ここで少し考えてほしい事があります。
この記事に記述したのは、あくまで私の考えです。
おそらく、読者であるあなたにはあなたの考えがある事と思います。
そのあなたの考えを、まずは大事にしてほしいと思っています。
何が何でも私が正しい、というつもりは毛頭ありません。
参考になりそうだな、確かにそうだな、と思う部分だけ上手く取り入れて頂ければ幸いです。
さて、今回は実際に戦略を作っていくステップを解説します。
これもまた、私のやり方であり、あなたのやり方ではありません。
ざっと流れをご確認いただいたら、取り入れられる部分を取り入れて頂ければそれでOKです。
これだけははっきり言っておきます。
私はあなたの会社の経営責任を取ることはできません。
それを担えるのは、あなたしかいません。
という事で、今回も長文ですが、ご興味があれば続きをどうぞ。
私の著書です。
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起点は顧客
市場ではミスマッチが起こっている
戦略などというと、さまざまな分析ツールが開発されています。
比較的メジャーなSWOT分析、3C分析、PPM、ファイブフォースなどなど。
これらを使いこなせれば強力なツールとなるのでしょうが、ハッキリ言って使いこなすにはそれなりの広範な知識が必要です。
ちょっとSWOT分析をかじってやってみた、的な分析をよく見かけますが、有効に機能しないことが多い。
中小・零細企業で、二代目社長がこういったツールを生兵法でつかうと結局、回り道をすることが多々あります。
どう回り道になるかというと、これらの分析の多くは、顧客の生の声が反映されにくい事が多いのです。
たとえば、SWOT分析。
強み、弱み、市場での機会と脅威を一枚のシートに書き出します。
じゃあ、そもそも自社の強みって何でしょう。
この時にありがちなのが、「自分たちのこだわり」を強みにあげがちです。
仮に、強みに「専門性」と書き出したとしましょう。
その専門性は、誰と比べて専門性が高いのでしょうか?
同業他社?学者?異業種からの参入者?一般人?
強みというのは、相対的に見ることが多いため、「誰と比べて」という要素が必要となります。
さらに、そもそもその専門性を、顧客を求めているのでしょうか?
たとえば自動車の板金工場。
お客様にとって一定レベルを超えてさえいれば満足。
プロしかわからないレベルの技術の違いは判別できません。
そんな、顧客にとって「価値」に感じられないところを頑張られてもよくわからないのです。
顧客にしてみれば、実はきちんとした説明であったり、待たせないとか、キチンとコミュニケーションを取ってくれるといったほうが有難かったりします。
さらに、「高い技術力」と謳われたところで、顧客にしてみれば「みんな同じことを言ってるよ」という感覚。
高い技術や専門性といった、程度の問題は顧客に伝わりません。
これ、ミスマッチなわけです。
お客さまはそこまで求めていないのに、事業者は勝手に必死になって技術力を磨いている。
逆に言えば、お客様にとっては、専門業者なんだから、技術力が高いのは当たり前、という感覚です。
顧客に伝わらない「価値」は意味がない
会社の姿勢として、技術力や専門性を高めていく、というのは回りまわって顧客の満足度に影響します。
だから不要だというつもりはありません。
しかし、戦略を考えるにおいて、それはあくまで前提条件であって、目指すべきところではないことが多い。
経営戦略とは、企業が目的を達するための流れ、と前回表現しました。
こういった「こだわり」は、ひとまずはおいておいて、わかりやすい価値を創造していく。
そうすることで、比較的早い段階で戦略の良しあしを判断しやすくなるので、まずはそこからスタートすることを提案したいと思います。
その指標となるのは、顧客があなたの会社の価値を明確に語れるか?ということ。
なぜ他社ではなく、あなたの会社を選んでいるかを顧客が自分の言葉で語れる状態が理想です。
では、初めにやるべきことは、何でしょうか。
まずやりたいのは、今すでにそういった価値が自社に備わっていないか?という事を探る事です。
繰り返しになりますが、顧客から見た価値があるのか、ないのかです。
その最もシンプルな方法は、顧客に聞く事です。
アンケートという形でもいいですし、それでわかりにくければインタビューなどの方法もとってもいいでしょう。
聞く事はただ一つです。
「数ある企業の中で、お客さまはなぜ私たちを選んでくださったのですか?」
この質問は、差別化の内容を明確にする質問と言われています。
USP(Unique Selling Proposition)と言われることもあり、他社にない独自性を明確にすることです。
この質問を顧客に行うことで、顧客がなぜ自社を選んでくれているかが明確になります。
これが、いわゆる自社の強みです。
驚くべきことに、自分たちが自社の強みと思っている事とは違う内容になることも多いようです。
それだけ私たち事業者側と、顧客の感覚はかい離しているといえるのでしょう。
まずは、今の顧客が私たちをどう見ているか。
これをチェックする事から始めてみましょう。
また、こういったインタビューを全社的に行うことは、もう一つの効果があります。
「私たちは、顧客の事を知っているようで、実は知らない」
という現実を社員一人一人が認識するようになります。
自分たちのやっている事が、顧客のどんな感情に刺激をあたえ、購買につながっているか。
これを理解するためのはじめの一歩であり、私達は顧客を知らない、という現実を知るはじめの一歩でもあります。
顧客の意見がアテになりにくい業種
実は、私自身、こういった顧客インタビューを何度か全社的に試みました。
しかし、どうしても、求める答えが見つからずにいました。
その謎が解明されるには、随分の月日が必要でしたが、こういった商品を扱っている会社は注意が必要です。
それは、予防商品を扱う会社です。
保険、セキュリティ、防虫業者などといった商品。
こういった商品は、顧客にとって”今すぐ必要”である理由が乏しい商品です。
保険であれば、事故や病気にあうかどうかはわからないけど、いつかは起こるかもしれない。
だから来るべきに備える商品です。
セキュリティや防虫業者もそうですね。
今まさに困っているとか、今まさにほしくて仕方がないという理由で買う事のない商品です。
こういった商品やサービスを扱う業者の場合、顧客は取り立てて「あなたの会社を選んだ理由」を考えていません。
多くの場合、顧客にとっては受動的な姿勢で契約している事が多いのです。
逆に業者は積極的なセールスを行い、顧客を説得して購買に導いているわけです。
そういった顧客にインタビューを行うと、
「迅速な対応」「信頼関係」といったあまり具体性のない、ビジネス上の必要最低条件を口にされる方が多くなります。
これが難しいところで、これを真に受けて迅速性を高めようとか、信頼性を高めようとかすると、ちょっと困ったことになります。
大企業には勝つことが難しいジャンルになるからです。
しかも、それは本当に顧客が望んでいる事ではない。
顧客自身が、私達に求めているものが明確ではないのです。
このジャンルの商品の場合、顧客に「もしこんなのあったらいいな、と思うサービスはありますか?」なんて風に質問をしてもその答えを過信しないほうがいいでしょう。
確かにあったらいいと思うかもしれませんが、だからと言って買うかどうかは別物です。
あったらいいな、と、欲しいは別物です。
そこは相当注意が必要です。
そういうサービスをリリースしたときには、お客さまにはこういわれるかもしれません。
「そんなことをするなら、もっと安くならないのか?」と。
なにしろ、欲しくて買うものではありませんから、結局は、価格によるメリットを顧客は求めます。
だから、まったく違った価値を提供することが求められます。
その時のコツは、商品自体が「予防」商品です。
ですから、今すぐほしいという「治療」をイメージしたサービスを引っ付けることでビジネスが動きやすくなります。
シンプルに戦略を検討していく
ビジネスの最小単位は事業者と顧客
ではいよいよ自社の戦略を検討しましょう。
前回のコラムで、会社の目的がどうあるべきかをお話ししました。
この目的を達成するために、どんな流れをつくればいいかを考えていく事になります。
その過程には、恐らく様々な障害があるはずです。
これを一つ一つ乗り越え、一本のスムーズな流れを作っていく事が目的です。
ここで会社の目的=経営理念がキッチリと出来上がってなくても、とりあえずは”仮”の状態でもOKです。
戦略を作っていく中で明確になることもあります。
さて、ビジネスをあり得ないくらいシンプルに分解してみましょう。
色んなものを取っ払って、最後に残るのは何かわかりますか?
それは、私達事業者と、顧客です。
ビジネスの最も基本となる構成は、事業者がありその顧客がある。
これさえあれば、ビジネスが成り立つことはご理解いただけると思います。
この純粋な状態から考えると、余計なバイアスがかかることがなくなります。
往々にして、私達は顧客優先と言いながら、業界内での評判や、メーカーの顔色のために余計な仕事をしている事が多いものです。
業界であるべき姿を実現する事に必死で、顧客が見えてない経営者もたくさんいらっしゃいます。
多くの場合、競合他社をリサーチする事が重視されます。
戦略策定を、競合との関係から議論する事が多いからです。
これは、顧客の感覚と離れていく原因の一つでもあります。
顧客が求めもしない高機能家電は、顧客ではなく競合との差別化とか、価格維持を考えて行う行為ではないでしょうか。
結果として使いにくい商品が出来上がってきます。
顧客に振り向いてもらおうと高機能にするけど、顧客はその使いにくさに辟易としている。
そんな商品が世の中には溢れています。
モノが売れない原因の一つがここにあるのかも、なんて風にさえ思います。
他社との背比べからではなく、顧客のニーズから議論を始めることは難しさもありますが、急がば回れです。
結果として圧倒的な差別化が図れることはよくあります。
なにしろ、多くの企業は顧客ではなく、ライバル企業を見ながら経営していますから。
基本に立ち返って、自分たちと顧客の事を検討する。
まずはここから始めてみてください。
顧客は一人(一社)をイメージする
いよいよ、顧客と事業者の関係性の議論を始めるわけですが、その時にイメージする顧客は一人です。
よくある間違いは、老若男女・法人も個人も、なんて欲張って考えるともうぐちゃぐちゃです。
これは議論を行う中で明らかになっていきますが、事例で考えてみましょう。
30歳代子持ち世帯
という縛りをしたとして、パパとママで同じ情報に飛びつくでしょうか?
たとえば私が自動車メーカーだったとします。
この世代の人に商品を作り、広告するとすれば、どう考えればいいでしょうか?
パパは、いくら家庭のためとはいえ、男の色気みたいなものを車に求めるかもしれません。
そこそこ走りが良くって、実用一辺倒ではない色気のあるデザイン。
もしくは、男性的なちょっとRV的な要素があるのが好みかもしれません。
しかし、ママは実用重視。
車なんてただの移動手段。
だから、見た目はそんなに気にしない。
とはいえ、出来ればかわいいほうがいい。
ちょっとポップなデザインで、取り回しが楽な車がいい。
このプロファイルが正しいかどうかは別として、少なくとも男女差はあるはずです。
じゃあ、すべての要素を一つにぶち込みましょう!
これ、大企業のやりそうなパターンですね。
結局、パパにもママにもウケなかった・・・というのはよくある話です。
中途半端は、誰からも好かれないのです。
そこでターゲットをパパにしたとしましょう。
その場合、ママに反対されないために、ママにも好まれる車づくりというより、
パパがママを説得する材料を用意する、という方法が考えられます。
いってみれば、この車を選ぶ言い訳を作ってあげるわけです。
それは、商品に一部入れ込んでもいいし、広告戦略でそういうイメージを作るのもいい。
特徴のない商品は、積極的に選ばれません。
積極的に選ばれたいなら、あるていど強い特徴が必要です。
それは嫌われる要素にもなりえますが、誰にでも好かれるものなどあり得ません。
嫌われる前提で、強い主張をするわけです。
誰にでも好かれようとすると、消去法でしか選ばれない商品やサービスになってしまいます。
だから、顧客の設定はできるだけ具体的なほうがいいと思います。
その具体的な顧客像(これをペルソナといいます)をイメージして、その顧客に提供するものは何かを考えていきます。
法人であれば、規模、業種、決算状況、社長や購買担当者の好み、など様々な条件が設定できると思います。
設定した顧客が喉から手が出るほど欲しいもの
顧客のイメージが設定できたら、こんどはその顧客が喉から手が出るほど欲しいものをイメージします。
行列を作ってでも買いたいもの、他社の価格の二倍出しても受けたいサービス、など。
その背景には、考え出せば震えが止まらなくなるような怒りや、不安の対極にある事が多いようです。
とにかくどうしようもなく困っているとか、何とかしたいと常にその情報を求めているとか、そういった事です。
この議論は、出来れば自分たちの今ある商品やサービスに限定しないほうがいいでしょう。
なぜならば、今の商品で解決できない悩みがあるとすれば、自社がそれを解決する商品やサービスを開発することで圧倒的な地位を確保できる可能性があるからです。
逆に言えば、自分たちの業界では解決できなくて当たり前と思われていることほど、あなたの差別化戦略を強いものにします。
そんなこと、すぐに思いつくわけない?
それは仕方がありません。
戦略は目的を達成する流れを作る事です。
逆に言えば、これがいったん出来上がってしまえば、何の苦労もなく会社が成長するという道筋です。
そう簡単ではないのは当然で、逆に簡単でないことに知恵を絞るからこそ、独自性が強まるのです。
社員をPから参画させる
経営品質に詳しく、自身も傾いた会社を経営品質賞を受賞させるまでに育て上げたこともある経営コンサルタントの望月広愛先生はある事を強調されます。
それは、社員をPDCAのPから参画させなさい、という事です。
PDCAというのは、ご存知の方も多いと思います。
P(計画)D(実行)C(評価)A(改善)のサイクルです。
やってみて、上手くいったか評価し、さらに上手くいく改善策を常に作り出そう、という事です。
このPから社員を参画させる、というのは、何をやるのかを社員とともに考えるという事。
実はこれは、モチベーションのマネジメントを考える中で、心理学上も理にかなっています。
たとえば、心理学の世界では一貫性の法則というものが知られています。
これは、人は一度口にした事は、それを維持しようとする性質があります。
社内会議などにおいて、自分の意見を発言し、それが採択されればそれを成し遂げたいと感じます。
その場合重要なのは、リーダーが勝手に決めるのではなく、参加した社員が決める、というスタンスが重要です。
そこに必要なのは、心理的安全性です。
どんな意見を言っても、自分は安全である、という状態を確保するのがリーダーの役目。
時にはとんでもなく常識はずれな意見も、受け止める土壌が必要です。
それがないと、会議室はシーーーン!となってしまいがち。
あり得ない意見が、現実的な意見のヒントになることもあるので、その場の雰囲気を上手く作る事がリーダーには求められます。
ビジネスに精通した先代や、後継者・二代目社長にとっては、そのやり取りはイライラするようなレベルの低い内容である事も少なくないでしょう。
しかしここは、そういった過程を経て少しずつ、レベルアップを図っていくかじ取りが必要です。
ここで先代が、
「そんなことをうだうだ考えるくらいなら、こうすればいい!時間の無駄だ!」
何て言う暴言を吐かないよう、コントロールすることは大事です。
おすすめは、仮にそのような事が起こっても、後継者・二代目社長なら私を守ってくれる、と感じられる人間関係を、社員一人ひとりと結んでおくことです。
同じ議論がぐるぐる回る
設定変更は何度でも
顧客は誰か?その顧客にどんな価値を提供するか?
たった二つの質問でも、議論は同じところをグルグル回ったりします。
たとえば、顧客は誰か?という質問だけであれば、適当に理想像を描けばいい。
その時点では、無数にある選択肢のうち一つの”点”を選択した状態です。
しかし、そこにどんな価値を提供するか?という質問を加えた時点で、点と点を結んだ”線”になります。
ただ残念ながら、その線は簡単に引くことはできません。
それができる資源が社内にないとかいう話になりがちだからです。
その時は一旦リセットしてもいいと思います。
じゃあ、顧客イメージを変えてみて考えてみる。
それでも上手くいかなければ…
と何パターンか経験していくうちに、だんだんと社員はコツをつかみ始めます。
とても回り道をしているように見えますが、これは社員の思考トレーニングとしては非常に高い効果が予想されます。
余談ですが、ゴルフの練習をするときに次の二つのうち、どちらが上達すると思いますか?
①同じ距離、同じクラブで何度も練習する。
②違う距離、違うクラブで様々なパターンを練習する。
こたえをいうと、①の場合、同じ距離とクラブであれば上達が早いことがわかっています。
しかし、②距離やクラブを変えると、上達が見えにくいのです。
一方、②の場合は、一見上達が遅く見えるのですが、シチュエーションを変えたショットでも応用が利くようになります。
結果として、オールラウンドなシチュエーションで上達が早かったのは②の方だと言われています。
これと同じで、さまざまな顧客と、提供価値のパターンを検討することにより、戦略思考を社員一人一人が獲得できる可能性が高まります。
とにかく急がなければならない場合は別ですが、じっくり腰を据えて考える場合、こういった様々な状況を検討するほうが、長期的に見て組織の強さが増強されると考えられます。
検討項目はたった二つで良いのか?
ここで大きな疑問が出てきます。
検討項目は、顧客は誰か?提供する価値は何か?という二つだけの項目でよいのか?という事です。
私は、この時点ではこの二点だけでいいと思っています。
そもそも、そういった考え方を同業他社で取っているところは皆無に近いはずです。
ただし、提供する価値はかなり深堀していただきたいと思っています。
たとえば、印刷業者の場合、提供する価値は「美しい印刷です」では議論の意味がありません。
それ、顧客が喉から手が出る価値でしょうか?
同業他社は同じことを言っていないでしょうか?
たぶん、誰もが同じことを言っていますね。
同業他社と同じことをやっても意味がない事は、既にお話ししました。
「あなたでなければならない」という独自性が必要なわけですから、もっと深堀しなければなりません。
このような上っ面をなぞったような話しか出ないときは、設定した顧客の困りごとにフォーカスしてみてください。
印刷を発注してくれる発注担当者は、どんな困りごとを持っているでしょうか?
ギリギリにならないと原稿案が上がってこないとか、そもそも原稿案を作るのが大変とか。
ある印刷業者さんは、どうやら印刷技術ではなくその中身を重視した戦略をとったようです。
彼らは、保険販売社にターゲットを絞り、小冊子を作りました。
保険販売の会社は、販売用の文書には厳しい規制がかかります。
だから自由に作る事ができない。
そこに目を付けた印刷会社さんは、そういった保険販売会社の困り事にフォーカスしました。
著者として税理士を取り込んだ”本”を作ったのです。
中身は、生命保険の見直しに即つながる内容です。
これを保険販売店に買ってもらい、保険販売店は「本」のプレゼント(セールス用の文書ではない)として顧客に提供できる。
この「本」は1,000円を超えると、保険業界の粗品の規定に引っかかります。
だから定価は500円。
しかも、安い分文字も大きくページ数も少ないのでお客さまも読みやすい。
印刷や製本コストはさほどレベルの高いものである必然性はありませんから、利益率は悪くないと思います。
100冊くらいからの販売だったと記憶していますが、個人の顧客に売り込むよりずっと効率よく販売できます。
保険販売店の顧客は、その本を読めば生命保険の見直しをしたくなる。
だから保険販売店は、リピートして買い続ける、という流れです。
単純に、印刷業者が印刷という作業をビジネスにしていると、値段競争は免れません。
しかも、今の時代は、パソコンでそこそこきれいなプリントができる時代です。
そこで、販売ツールとしてコンテンツを含めた料金を設定することで、一つの流れを作っていた印刷業者という事なのでしょう。
もはやかれらは印刷屋さんとは呼べないのかもしれません。
これも、顧客を設定し、その顧客の困りごとを調べ上げ、そこに合致した商品を開発した好例だと思います。
彼らは、印刷作業代金のビジネスを、セールスツールの代金に転換したわけです。
これは大手は基本的に参入できないでしょう。
大手の印刷業者は、保険会社のパンフレット印刷は受注しますが、このような小回りの利く対応はできません。
ここに中小企業の勝機があるのだと思います。
ライバルをどう考えるか?
市場においては、必ずと言っていいほどライバルがいます。
ただ、これは上記の印刷業者のような事例では、恐らく他社の追随は難しい。
目に見える部分は、同業他社はいくらでも真似ができます。
しかし、このビジネスモデルを作り出した思考ステップは、真似することはできません。
なぜなら多くのライバルは、そのような戦略を考えたことがないからです。
ここまで深い議論が社内でできるようになれば、同業他社はライバルにはなりえません。
どちらかと言えば、異業種から自分たちの仕事に参入してくるケースを想定したほうが良いと思います。
ただ、どうしてもここまでの独自路線を作りにくい業種もあるでしょう。
そういった場合は、ライバルを意識せざるを得ないことがあります。
その時に考えてみたいのは、ライバルが捨ててる仕事、ライバルがやりたがらない仕事を上手くこなす仕組みが作れないか?という事です。
ロットが小さすぎて他社が嫌がることを、ビジネスとして成立させることができるとすればどんな方法があるだろうか?
大口契約を狙うのをやめて、小口の契約で儲けを出すことができるとすればどんな方法だろうか?
他にもいろいろあると思いますが、他者がやりたがらない仕事をビジネスとして成立させる仕組みを検討するのも一つの手段でしょう。
ということで、議論のスタートは、特にライバルは意識する必要はありません。
ただ、議論において「ライバルがすでにやっている事は却下、もしくは真似をするなら次元の違う工夫を行う」という判断基準として持っておくと良いと思います。
なぜなら、ライバルがやっている事の多くは簡単に思いつくことですから。
一方で、社内で議論したことを実行段階に移す際に、ライバル(同業他社というより異業種)の行っている類似のサービスがあればリサーチはしておいたほうがいいと思います。
まったく同じなら、その専門業者には勝てません。
しかし、私達は、それ自体で収益を上げるというより、そのサービスから本業商品に誘導できれば収益を上げられるとすれば、他者より手軽に利用いただけるサービスを作る事ができるかもしれません。
これ、かなり重要だと思います。
流れを意識する
カスターマージャーニー
顧客は一定の流れで、あなたの会社を認知し、関心を持ち、購買を決定します。
戦略とは流れを作る事だといいました。
会社の本質的な目的(経営理念)の達成のための流れをここで意識してみましょう。
善意に解釈すると、あなたが扱っている商品は、会社の理念を達成するために存在しているはずです。
その結果、世の中がより良くなるはずです。
顧客と、顧客へ提供する価値を考えたときに、その理念と合致しているかは意識しておいた方がいいでしょう。
それがキチンと合致し、あなたの商品やサービスを顧客が利用することで、理念の達成に近づくと判断できれば、その流れを設計していく事になります。
その時に参考になるのは、カスタマージャーニーという考え方です。
顧客はまったくあなたを知らない状態から始まり、さまざまな心理変化の結果あなたの商品を買おう、と決断し、財布を開きます。
無理やり売り込まなくても、顧客が先方から「ぜひ売ってほしい」と頭を下げるような流れがあれば、理念の達成は早くなります。
そのためには、あなたの商品やサービスが、それを必要とする人に伝わらなければなりません。
そのために何をするのか。
そして、その情報を耳にした人が、あなたの商品やサービスに魅力を感じ、問い合わせて頂くには何をするのか。
問い合わせた結果、購入の決断の背中を押すには何をするのか。
この一連の流れを作り上げていく必要があります。
これがまさに戦略です。
顧客を限定することがここで生きてくる
商品・サービスを検討する際もそうでしたが、この段階でも顧客を限定するメリットがあります。
それは顧客層によって出会い方は変わるからです。
若い人であれば、スマホかもしれません。
中年層は、ネットとリアルな広告のミックスかもしれません。
高齢者であれば、どちらかと言えばリアルが中心でしょう。
この人たちはどこに集い、どんな行動をとるかを知り、そこにあなたたちの商品サービスを知る仕掛けを作る。
法人が対象である場合も同様ですね。
業種を特定すれば、同業者団体、業界誌や業界新聞、業界のイベント。
規模を特定すると、規模によってアクセスすべき担当者が違ってくるかもしれません。
FAXDMが有効なケース、メールやWEB広告が有効なケース、コンテンツマーケティングができるケースなど。
手法は様々ですが、顧客の行動パターンを特定しやすいので、合理的な手段を選択できます。
この辺りはノウハウであったりするので、ここまでやるべきことが明確になってくれば、一つ一つのステップの効率を上げるにはどうすればいいか?という事を書籍やセミナーで知識を得る必要が出てくるステップに入ります。
基本は出会ってファンになっていただくまでの仕組みづくり
こういった流れを作る事を、マーケティングと言います。
新たな顧客とどこでどう出会い、どのように私たちを知っていただき、買いたいという思いをもって頂くか。
これも答えは顧客にしかありません。
業界の情報誌から少し目を離して、顧客の事をじっくりと観察する必要が出てきます。
顧客はほとんどの場合、いきなり「買いたい!」と現れるわけではありません。
そのためには、地道な関係づくりが必要です。
今までは、これを担ってきたのは営業社員なのかもしれません。
しかし、営業社員の個性で持っているのは考えようによっては奇跡的ともいえる話です。
特に、ネットでの販売が当たり前になってきた昨今では、会社としての引力・魅力が重要になってくる時代なのではないでしょうか。
そういった顧客との関係づくりを行い、買いたいと手をあげて頂き、さらに継続的にご利用いただく。
この仕組み化こそが戦略と言えるのではないでしょうか。
「顧客との関係」以外の戦略
資源の配分
ここまでの話は、いかに顧客になって頂き、いかに買っていただくか、というのが話の中心でした。
「結局、売りたいだけだろ」
とおっしゃる方もいるかもしれませんね。
しかし、企業の目的のところで検討しましたが、私達の仕事は顧客の創造です。
これさえできれば、あとは自然と整ってくるのではないかと思うのです。
たとえば、ある方法で、新しい顧客とのつながり方を自動化できそうな気配が見えてきた。
当然、その様子を見れば、人・モノ・金をそこに配分しますよね。
顧客とのつながりの中で、社員に必要と思われるスキルが明確になった。
であれば、当然その教育は行いますよね。
会社の利益は燃料という話がありました。
その燃料をどう使うかは、顧客との関係を起点として自然と作られていきます。
お金やモノを新規開拓につかうぞ!という事を戦略に組み込むのはもちろんいいのですが、私はまずは何をやるかを明確にすることが大事だと思います。
予算があって、それをどう使うかではなく、どういうことをやりたいかが見えて予算を付ける。
結局、顧客を中心に会社を回せば、意外と他の部分は後からついてくるというか、何が必要かが見えてきます。
抵抗は必ず現れる
ある程度まで議論がすすんだら、あとは失敗しても損失が大きくない範囲でテスト的に実行していく段階に入ります。
顧客を決め提供する価値を決めた。
それをはじめは小さくスタートしようと決めた。
じゃあ、いざ担当者を決めてやろう、となると多くの場合、抵抗がおこります。
これは人間である以上は、避けられない部分なのかもしれません。
新しい事に対するリスクは怖い。
しかも、社員にとってはそれが失敗したら…
今でも忙しいのにさらに新しい事をやるなんて…
という感覚もあるのでしょう。
そこは、状況によっては、やるぞ!と思い切ってスタートするタイミングもあれば、もう少し社員の心理的な準備ができるまで待った方がいい場合もあると思います。
工夫としては、そのはじめの一歩をできるだけ小さくすることです。
たとえばイベントをするなら、会場のリサーチを来週までにしよう。
集客が心配なら、来てくれるお客さんはいるか軽くヒアリングしてみよう。
そんなステップを少しはさんで、「やっぱりやってみなきゃわからないね」という結論になればまずはやってみる。
失敗したとしても、それがもつ価値は繰り返し伝えていく必要はあるように思います。
組織学習のステップ
基本的な考え方を共有
さて、ここまでいろんなことを書いてきましたが基本はこの2ステップ。
顧客を決め、
その顧客に提供する価値を決める。
これを、何度も何度も繰り返し質問します。
その過程で、なぜその議論が必要なのかを、繰り返し語ります。
そうすることで、組織全体の意識が変わるはずです。
顧客を知らない現状を知り、顧客の本音を知ろうとする。
実はこの時点で、この試みは半分成功したようなものだと思っています。
中小企業はニッチ戦略しかありえない
多くの経営コンサルタントが語っていますが、中小企業は基本ニッチ(隙間)戦略以外はありえません。
それは私も賛成です。
なぜそう確信しているかというと、以前も書きましたが「空き家の火災保険」というニッチな分野のWEBマーケティングを試したときの実感です。
家業である保険の販売店は、多くのライバルはどんな保険も、どんな顧客も受け入れるのが一般的です。
すると、千種類にも及ぶ保険種類に精通し、顧客に最適な提案をするマンパワーが求められます。
しかしそこに疑問をいだきやってみたのが、空き家の火災保険に特化したWEB戦略です。
それを作り上げるには時間がかかりましたが、出来てしまえば、
●こちらが営業しなくとも先方から問い合わせがある
●他で断られて困っている方々なので「助かりました」と言って電話をかけてこられる
●顧客の知りたいことがパターン化されているためマニュアル化しやすい
など様々なメリットがあり、効率化が進みます。
普通の保険コンサルタントがまともに仕事ができるようになるまで3年ほどかかると言われている業界ですが、ここまで絞り込むと教育に数週間でOKです。
しかも、顧客に対する営業活動は皆無ですから、非常に効率がいいのです。
ビジネスモデルとしては、今度は空き家の火災保険を検討される方が困っている事を解決するサービスを次の商品として提供すればいいわけです。
これが、「保険の事なら何でもご相談を」とやってしまうと、保険コンサルタントの育成には時間がかかります。
そもそも、こういったぼんやりしたメッセージでは、問い合わせが来ないのです。
単品商品を、特定の狭い顧客に販売する。
これが中小企業の基本だと思います。
先代との関係性で注意する点
ここで後継者ならではの問題が出てきます。
今まで様々な商品を扱い、さまざまな顧客と繋がってきた自分の会社。
これを、顧客は単一層、商品も徹底的に絞り込むぞ!なんて言い出したら、親子喧嘩は必至です。
だから、全社的にそうするのではなく、「実験的試み」として社内を巻き込むことをおすすめします。
今までの会社は今まで通りやる。
けど、この小さなエリアの小さな試みだけは、試させてほしい。
そういった段階が必要だと思います。
そこで、ある顧客層で上手くいかなければ、別の顧客層。
いろいろと試した結果、「これだ!」というマッチングが期待できる層が出てきた時に、そのプロジェクトを一気に進めるのです。
成果が明確になるプロジェクトは、先代もさほど目くじらを立てない・・・というより拒絶する理由がなくなります。
まずは小さな成功を目指してください。
ただ、この過程に、基本、失敗はないと思っています。
その過程で社員を巻き込むことで、会社は一体化していきます。
これこそが、後継者・二代目経営者が担う重要な役割の一つなのですから。
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この記事へのコメントはありません。